XilinxソフトIP AXI VDMA(Video Direct Memory Access)の使い方 (1)基本機能

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本記事の概要

概要
  • Xilinx ソフトIPコアAXI VDMAの基本機能について解説
  • AXI VDMAは、メモリと周辺機器とのビデオ信号のやり取りをDMA方式で行うためのIPコア
  • AXI VDMAには、3種類の主要なインターフェースが用意され、他のIPコアとは以下の通り接続する
    1. AXI4 Memory Map :メモリに接続されるビデオデータの伝送バス
    2. AXI4-Stream : 周辺機器(ペリフェラル)に接続されるビデオデータの伝送バス
    3. AXI4-Lite:AXI VDMAコアの制御信号やステータス信号の伝送バス

過去の記事では、「Vitis」でのビジョンライブラリを試す前準備として、Digilent社が提供するHDMI出力デモのサンプルプログラムを読み込み、自動でビデオ生成に有益なIP類が追加されました。

中でもビデオ生成において、DDR3メモリからデータを読み出し、AXI4形式で出力させるAXI Video Direct Memory Access (VDMA)コアは、ビデオ生成部における中核をなすIPとなっています。

しかし、使える機能が多様な分、説明が多く、初心者には敷居の高いIPと感じます。
そこで、まず最初に使うにあたって、最低限知っておくと良い項目についてまとめました。

この記事の対象読者
  • FPGAの開発に興味のある学生
  • Vitisを用いたアプリケーション開発は未経験のエンジニア
  • FPGAでの動画像処理を行いたいエンジニア
ひがし
ひがし

それでは、興味のある方はぜひ最後までご覧ください!

AXI VDMA(Video Direct Memory Access)の機能

AXI Video Direct Memory Access (AXI VDMA) コアとは、ビデオ入出力を行う周辺機器(ペリフェラル)とメモリとを、直接つなぐIPコアです。
周辺機器は、例えば、カメラなどからのビデオ入力や、HDMIケーブルを通じた外部ディスプレイへのビデオ出力などの、ビデオインターフェースをイメージすると良いかと思います。

基本的には、メモリとビデオインターフェースとの間に配置して、メモリとの画像の送受信を高効率に行うためのIPコアといえます。

DMA (Direct Memory Access) 方式

高効率にアクセスできる理由は、DMA (Direct Memory Access)方式を採用し、CPUを介さずに直接、メモリと周辺機器(ペリフェラル)とを接続して、メモリへの書き込みと読み出しを行っているためです。

通常、データをメモリに書き込んだりメモリから読み出したりする作業は、CPUが行います。この方式は、PIO (Programmed I/O)方式と呼ばれます。

しかし、メモリへの書き込み・読み出しの処理中には、CPUは他の処理を効率的に行うことができません。
そこで、DMA方式と呼ばれる、周辺機器(ペリフェラル)とメモリとを直接接続し、CPUを介さずにデータの書き込み・読み出しをできるようにしています。

ビデオや音声などの大量かつ継続的にデータをメモリに入出力したい場合には、DMA方式を採用するほうが、結果的に処理性能を向上することが可能です。

DMA方式のメリット
  • 高速性・大容量性(周辺機器とメモリ間の高速かつ大容量にデータ転送可)
  • CPUの負荷軽減(CPUはメモリ伝送以外の別のタスクに集中可)

一方、メモリ・周辺機器・CPUなどの複数の端末が、一つのデータバス(データの通信路)を共有しているので、バス使用権の調整を行うDMAコントローラを配置しなければいけません。

また、キャッシュコヒーレンシの問題が起こる可能性もあります。
CPUはメモリと読み出し・書き込みを行う際に、一時的にキャッシュと呼ばれるデータアクセスが早い領域に一旦データを溜め込んでおき、処理を行います。このとき、メモリの内容とキャッシュの内容の整合性(コヒーレンシ)をとることを、キャッシュコヒーレンシと呼びます。

DMA方式では周辺機器がメモリと直接アクセスできてしまいます。
そのため、キャッシュとメモリの整合性を取る前に、CPUがキャッシュにアクセスしたり、あるいは周辺機器がメモリにアクセスしたりしたときに、想定とは異なるデータが送受信されてしまう恐れがあります。

DMA方式のデメリット
  • DMAコントローラを配置する必要がある
  • キャッシュコヒーレンシの不整合発生の懸念

DMA方式は、多少のデメリットはありますが、大容量のデータを高速にやり取りする際には、採用するメリットのほうが多い方式といえます。

特に、ビデオ入出力の用途では、大容量の画像データを高速にメモリとアクセスする必要があるため、メモリと直接アクセスできるDMA方式を採用するのが良いでしょう。
AXI VDMAコアは、ビデオ入出力向けにDMA方式でメモリとアクセスできるようにしています。

ひがし
ひがし

DMA方式は、以下の書籍で勉強しました。DMAに限らず、汎用的に使われるペリフェラルの通信方式からマイコンやRaspberry Piを使ったシステムの例が初学者向けにわかりやすく書かれた、おすすめの書籍です。

AXI VDMAの接続方法

AXI VDMAにおけるインターフェース

AXI VDMAコアには、他のIPコアとデータをやり取りするために、3種類の主要なインターフェースが用意されています。

AXI VDMA (Video Direct Memory Access)コアにおける主要インターフェース
  1. AXI4 Memory Map (MM):メモリに接続されるビデオデータの伝送バス
  2. AXI4-Stream (S) : 周辺機器(ペリフェラル)に接続されるビデオデータの伝送バス
  3. AXI4-Lite:初期化や割り込みなどAXI VDMAコアの制御信号やステータス信号の伝送バス

周辺機器と接続されるIPコアとはAXI4-Stream (S)と呼ばれる伝送バスで、メモリとはAXI4-Memory Map (MM)と呼ばれる伝送バスで接続します。
画像データはこの伝送バスを通じて、メモリと周辺機器との間で送受信されます。

また、初期化や割り込みなど、制御信号やステータス信号をCPUとやり取りするときには、AXI4-LITEと呼ばれる伝送バスを通じて行われます。

実際のVivadoにおけるブロックダイアグラム上でIPコアを確認してみましょう。
IPの設定画面上で、メモリからの読み出し(Read)と、メモリへの書き込み(Write)のいずれを行うのかを(あるいは両方を)設定することが可能です。
今回は、ReadとWriteの各設定をした場合の、IPのブロックダイアグラムを示しました。

各バスの接続方法を表にまとめると、この通りです。

方向メモリ(MM)側と
接続するバス
周辺機器(S)側と
接続するバス
制御・ステータス信号を
やり取りするためのバス
メモリから読み出す
(Read方向)
M_AXI_MM2SM_AXIS_MM2SS_AXI_LITE
メモリに書き込む
(Write方向)
M_AXI_S2MMS_AXIS_S2MMS_AXI_LITE
ひがし
ひがし

接頭辞のM_S_というのは、そのIPが送受信を行う場合に、マスター側になるか、スレーブ側になるか、という役割分担を示しています。
マスター側が主導権を握って、スレーブ側が指示に従ってデータを受信したり、送信したりするわけですね。

メモリから読み出す場合(Read)、Memory Map(MM)からStream(S)へ画像データを伝送することになるので、MM2Sと略されています。

IP上にはMM2Sが名前に含まれるインターフェースは2つあり、一つがM_AXI_MM2S、もう一つはM_AXIS_MM2Sです。
AXIの後に「S」がついているだけの違いですが、M_AXI_MM2Sの方はMM側、すなわちメモリに、M_AXIS_MM2SがStream側、すなわち周辺機器と接続されます。

そして、この2つ以外にS_AXI_LITEというインターフェースがあります。これが、CPUと制御信号・ステータス信号をやり取りするためのインターフェースとなります。

メモリへ書き込む場合(Write)は、逆にStream(S)からMemory Map(MM)へ画像データを伝送することになるので、S2MMと略されています。

こちらも読み出し(Read)と同様に、M_AXI_S2MMの方はMM側、すなわちメモリに、S_AXIS_S2MMがStream側、すなわち周辺機器と接続されます。

Zynq-7000におけるAXI VDMAの構成例

Xilinx SoCのZynq-7000を例に、ブロックデザインにおけるAXI VDMAの接続例を示したいと思います。

Xilinxが公開している、Zynq-7000の内部構成は以下のとおりです。

Zynq-7000のブロック図https://www.xilinx.com/support/documentation/user_guides/ug585-Zynq-7000-TRM.pdfより抜粋/改変(網掛け追加)

APU (Application Processor Unit)とPL (Programmable Logic)に2種類のインターコネクトが用意されています。

右のインターコネクトは、High-Performance Ports (HPポート)を通じて、DDRメモリとPL (Programmable Logic)との間で、データの送受信を行うことが可能です。
一方で、左のインターコネクトは、General-Purpose Ports (GPポート)を通じて、CPUとPLとの間で、データの送受信を行うことが可能です。

Zynq-7000 SoCのテクニカルリフェレンスから、各ポートのスループットと推奨する使用方法について調べました。

手段推奨する使い方スループット(Estimated)
PL AXI_HP DMA大容量のデータセットをDMA形式で伝送1,200 MB/s
(複数のインタフェースそれぞれ)
PL AXI_GP DMA・PLとPS間の制御信号の伝送
・PS I/O ペリフェラルのアクセス
600MB/s
データ輸送方法の比較 https://www.xilinx.com/support/documentation/user_guides/ug585-Zynq-7000-TRM.pdfのTable 22.8より

この比較表によると、以下のように設定するのが良いかと思います。

  • ビデオの送受信は大容量かつ高速な伝送が求められるので、AXI4 Memory MapはHPポートに接続
  • 制御信号やステータス信号をやり取りするAXI4-LITEのバスはGPポートに接続

例えば、メモリからビデオ信号を読み出す場合、IPは図のような構成になります。

PS部とAXI VDMAの間にインターコネクトを配置し、AXI VDMAの制御信号やステータス信号はM_AXI_GP0ポートから、ビデオ信号はS_AXI_HP0ポートから入出力を行います。

ひがし
ひがし

ちなみに、AXI VDMA側から、メモリにデータを要求するので、AXI VDMAがマスターの役割をします。

DMA方式では、CPUはデータの送受信に関して基本的に何もできないので、AXI VDMAのMemory MapはRead、Writeともに常にマスターになります。

次回の記事へのリンク

参考文献

Xilinx社のリファレンス・マニュアルを参考にしました。

https://japan.xilinx.com/support/documentation/ip_documentation/axi_vdma/v6_3/pg020_axi_vdma.pdf

https://www.xilinx.com/support/documentation/ip_documentation/axi_videoip/v1_0/ug934_axi_videoIP.pdf